本1

クスノキの番人 (東野圭吾, 2023)

自分なりの評価 : 3 / 5

 

久しぶりに本を読んだ.ブラック企業から理不尽な理由で解雇された挙句,金欲しさに盗みを働いて捕まった青年が,運よく伯母に保釈金を払ってもらって保護観察になるも,代わりにパワースポットとして有名な神社のクスノキの番人をやらされる.そのクスノキで祈念をすると何でも願いが叶うらしく,色んな人と関わりつつその謎を解き明かしていく.結論として,そのクスノキは容量無限の記憶媒体の役割を果たしていて,新月の晩に祈った人の全ての思いを留め,満月の晩に祈ればその思いを全て受け取ることができる.天才音楽家だった人の作った曲を,その念を通じて形にしたり,亡くなった大企業の重役の思いを後継者が受け取ったりして,色々活用される.主人公は最終的に伯母の思いを受け取ることになり,色々な秘密を知るも,祈念の力を使わずにお互い気持ちが通じ合っていく,みたいな感じで終わり.

 

感動エンターテイメントとか書いててちょっと辟易したが,面白かった.色々な人との関わりを通じてクスノキの秘密を解き明かしていく様が,論理的で推理小説を読んでいるような感覚だった.音楽を形にしていく所はなんか感動的すぎて少し冷めたが,「クスノキという大きな謎の提示」→「そのメカニズム解明」→「伯母との対話を通じたその力の否定」という構造が面白かった.否定とまでは言わないでも,クスノキの持つ大きな力を使わずに,主人公と伯母との心が通じ合っていく所は結構面白くて,正直鳥肌が立った.ロジカルな展開と人間の心が上手く組み合わされているような感じで,読んでよかったと思った.三人称視点という事もありちょっと全体的に堅いような印象があったが,それが個人的には好きだった.