本2 / 映画3

七つの会議 (池井戸潤,2012)

七つの会議 (福澤克雄監督, キャスト香川照之及川光博他, 2019)

自分なりの評点 : 4 / 5

 

原作小説と映画.

大手電機メーカーの子会社である東京建電を舞台とする,社員達の群像劇.ノルマ激ヤバかつ激詰めの社風の中,完全パワハラ上司の北川 (香川照之) に営業二課の課長である原島 (及川光博) が会議でボコボコにされるところから始まる.落ちぶれの二課と反して,困難なノルマを数ヶ月連続で達成する花の一課を率いる坂戸は,かつてエリート社員だったにも関わらず今はサボり野郎になっている八角 (野村萬斎) へのモラルをガン無視した指導を原因として,まさかのパワハラ認定をくらい人事課へ左遷される.その左遷の直接的な原因はモラハラではなく,不当な低価格で強度不足のネジを売りつけるメーカーとの契約により営業成績を上げた不始末に対するものだった.そのネジは今や世界中の鉄道や航空機の椅子に使用されており,リコールしなければ多くの人の命に関わるような問題となるが,その負債を抱えきれないと判断した経営陣は隠蔽・闇回収に走る.八角はかつて,常識を逸脱したレベルでの強引な営業により顧客を経済難に追い込み,死にすら至らしめた事や,東海の鉄道の椅子に強度不足のネジを売り込み隠蔽・闇回収を行い,事故が起きていないか震えながら毎日新聞を確認するような事を経験しており,自社や自分自身の利益よりも顧客の利益を重んじることを信条としていた.今回の隠蔽を決して許さず,親会社・マスコミへのリークを実行,世界中の交通網が大混乱に陥る.東京建電は巨額の負債を抱え債務処理に追われ,原島八角は自らの意思で会社に残り,マイルドになった社風の中職務に勤しむ.終わり.

 

普通に面白かった.途中までは読み進めるのが正直辛かった,というのもザ・現実感が人物の言葉遣いとか不倫の描写からアリアリと感じられたから.それに小さい会社の中でのいざこざを見せられても,規模感も小さいし「社会人になりたくないな」くらいの感想しか抱いていなかったが,小さな粗悪品のネジが世界中の交通機関で使われている事実が発覚した所の物語の規模の広がりにハッとさせられた.社会人として仕事をした事がないから,「利益より信念を取るべき」の美学には直感的な理解を示せない (表面的には勿論共感できるが,現実はそう上手くいかないのだろう)が,この世界観の広がり様が個人的には面白く感じた.

映画は半沢直樹系のやつでした.悪人を悪人として誇張気味に描写しているのが特徴的だと感じたが (好き嫌いは置いといて一般ウケする演出なのだろう),八角のキャストを野村萬斎にした所は素晴らしいと感じた.野村萬斎って元々狂言の人で映画俳優ではないはず,そのため他の俳優と比べて発声の仕方がかなり違うなと感じた(腹から声を出している感じ?). そして,八角は超ブラックな環境の中で異彩を放っている人物として登場しており,会社の中で,言うなれば映画の中で,「浮いた」キャラである.演技の仕方やこれまでの蓄積が全く異なる役者をそこに当てはめた点に,キャスティングのプロフェッショナルさを感じた.原作小説・映画ともにエンタメとして完成度が高いなと感じました.