240427

傷を抉りたくなる感覚

 

ウマ娘の2期は凄く評判が良くて,それはえげつない程にトウカイテイオーの絶望が表現されているからだと思う.

 

流れとしては,

トウカイテイオーという天才が「三冠」(皐月賞,ダービー,菊花賞という3つの大きなレース)を目指す

皐月賞とダービーは勝つけどその後怪我で断念

→目標を「無敗」に切り替えて,メジロマックイーンというライバルに勝負を挑む

→惨敗,また怪我

→別のレースで再びメジロマックイーンに挑もうとするも,レース直前で怪我

Fig. 1 はその後の一場面.レースから引退する決心をする所.

 

Fig. 1 ウマ娘二期10話 [*]

この絵にある情報としては

・目標を紙に書いて,自室に貼っている(メジロマックイーンに勝つぞ的な)

・怪我により目標達成を断念し,その紙に書かれた文字をペンで塗り潰している

という事.

 

注目するべきは「紙を破いて捨てるのではなく,文字を塗り潰してそれを「自室に放置している」」という点.

 

ここからは妄想.

 

目標を紙に書いて自室に貼る,というのは割と誰でもやりそうな事で(自分にも覚えがある),それ自体はキャラクターの個性を描写するための一種の表現に過ぎないと思うのだけれど,目標が達成できなければその紙は破いて捨てる人が大半なのではないかと考える.しかし当人はそうせず,塗り潰された目標を自室に置き続ける事で「「達成できなかったという事実」を,「自身が頻繁に目をやる場所」に掲示し続けている」事になる.

この行為は他人の指示等ではなく自身の意思に基づくものであるはずで,その意思をストレートに解釈するならば「目標を達成できなかった事実を繰り返し認識することで「傷付いて居たい」」という事になる (臥薪嘗胆的な思想でこの行為に及んでいるという解釈は文脈から否定される.説明は割愛.).これがもし「傷を抉りたくなる感覚」の描写であるならば,この場面で描かれている心情はこれ以上なく深い絶望である.一言で言えば「とんでもなく闇が深い」.(この場面の後すぐに紙を破り捨てている可能性もあるが描写されていない為肯定も否定もできない.こう解釈する方が(絶望は深い方が)作品としては面白いので勝手にそう考えている.)

 

この感覚に実は覚えがあって,先日友人に話してみた所全く理解されなかった.「悲しい時には明るい曲よりむしろ悲しい曲を聞きたくなる」という感覚が近いと思う.

depressiveな気分の時暗い話や暗い音楽に惹かれるのは,自身の傷をさらに抉ろうとする感覚で,病んだ自傷的な精神だと思う.

これはある種の防衛機制として解釈できると考える.傷付いた時,これ以上傷付かなくするためには,「これ以上傷付きようがないほど傷付けば良い」.致命的なダメージをあえて自ら負いにいく事で,これ以上落ちようのない深いところまで自ら落ちていく.いわば「これ以上傷付かないために自ら傷を負う」行為だと考えれば,これはある種理に適っている.自身の精神の安寧を保つための,ペシミストの処世術の一つなのかもしれない.

 

[*] 電撃オンライン.'アニメ『ウマ娘 2期』10話。トウカイテイオーは脱退届を提出する・・・'. 2021-03-05. https://dengekionline.com/articles/70423/, (参照2024-04-27)