映画①

クローズ・アップ (アッバス・キアロスタミ, 1990)

自分なりの評点 : 4 / 5

 

イランの映画.舞台はテヘランで,映画好きの青年が,バスで偶然出会ったお金持ちの婦人に映画監督(マフマルバフ,実在するイランの監督)を騙り,その家族と仲良くなってお金をもらって映画を撮ろうとして,結局バレて訴えられる話.

 

一言で言うと,「不思議だけどちゃんと映画」という印象だった.

今まで見た事がない類の映画で,「実際に起きた事件」を,「事件の当事者達が自分をそのまま演じて」いる.この点で既にかなり新規性があり,アメリカのその辺の映画みたいな派手な演出もなく淡々と進んでいく感じが妙に生々しい.と言っても嫌な生々しさではなくて,よしんばこれが全てフィクションであったとしても,すぐ近くで起こっている出来事であるような感覚になる.若干ホームビデオ感のようなチープさ(?)があって自分には新鮮だった.

裁判所での審理のシーンのみモノクロで,実際に裁判を傍聴しているような感じで淡々と話が進んでいく.被告と原告の主張がそのまま映されていくが,NHKのドキュメンタリーを見ているような気分で,本当に少しだけだが見るのに疲れた.そもそもドキュメンタリーは「事実の記録に基づいた表現物」を指す [1] らしく,「ドキュメンタリー映画」というジャンルもあるくらいなのでまぁそう言うものなのかもしれない.ただ,ベンアフレックの Argo は一応ドキュメンタリーではあるものの,盛り上げる為の脚色も含んでいて,Imitation game 然り,Beautiful mind 然り,この映画は自分が今までよく見てきたノンフィクション映画とは少し異なって,一切脚色を加えず事実をありのまま描いている.妙な生々しさはここから来るのかもしれないし,自分は案外「作品を魅力的にするための演出(事実の歪曲まではいかなくとも,カットや音響など)」を求めているのかもしれない.

だが,最後に青年が実際にマフマルバフに会って号泣するシーンで,これはドキュメンタリーではなく映画だなと感じた.結局映画を作ると言う目的は果たせず,ムショにブチ込まれ,失意のまま監獄での生活を過ごし,出所した瞬間に自分が最も憧れる人物に出会う,その瞬間がどれだけエモいものか,実感はできなくても想像は出来るし,観客の心を揺さぶる所だと思う.二人でバイクに乗るシーンで初めて劇伴が流れるところも結構グッときた.それまで家や裁判所での出来事が事実ベースで淡々と進んでいたのも相まって,ここで青年の心(「痛み」?)に大きく?フォーカスが当たっているような印象を受けた.過度な演出や音響をここまで出さなかったのは,このバイクのシーンを際立たせる為だと言われれば納得がいく.事実と心象の対比がうまく作られているような気がして,単なるドキュメンタリーではないなと感じた.

 

この映画めちゃくちゃいい,最高,という程ではないものの,今まで触れた事のない種類の作品だった事や,バイクのシーンのエモさを鑑みて,4点です

 

[1] 日本大百科全書, 「「ドキュメンタリー」の意味・わかりやすい解説」, 

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